日本で初めて労働組合をつくった男





労働組合不振の原因(桑田熊蔵)


「◎我が国職工組合不振の原因(法学博士 桑田熊蔵)・・・・・我が国従来の職工組合の衰亡を来たした重なる原因は労働者以外の人、学者や政治家が統御した事に帰する。第二は労働者自身の間に組合事業に経験がなかったことである。日本の労働者は組合事業には全く経験がなかったがために職工組合ができると色々の弊害が生じて来た。即ち、一方では役員の競争がはげしくなる。他方には無用の機関を設け無用の出資を増し、これがために事務の進行は困難になる。会計は紊乱する。これは労働者のみでなく国民一般の欠点であって、会計紊乱の公徳問題に至っては、むしろ労働者は廉潔の風を有するが、とにかくもこれらの弊害があった上に、組合員が定期に金を出さなかったので、金は集まらず、費用は掛かる、会計の整理はつかぬという様なことから、ついに組合は壊れてしまったのである。第三は資本家との関係において中庸を得ていなかったことである。職工組合は資本家に対してみだりに反抗の地位にたってはならぬと同時に、又隷属的関係を保ってはならぬ。その中間に立って中庸の道を辿って行くのが職工組合発達の条件である。ヨーロッパの職工組合の中で、社会主義によっておる者が随分ある。これは何れも資本家に対して反抗の態度を取って居るから、資本家には非常に嫌われ、両者の間に平和の関係を保って行くことができなく、社会から、又擯斥されている。もちろんこれらの職工組合は、職工組合としてよりは寧ろ社会主義伝播の機関に使われているのであるから、職工組合というよりは、社会党の一派に見る方が至当である。又フランスでは労働者と資本家と一緒になって組合を組織し、資本家は名誉会員とか賛成員というような者になり、組合に相当な補助金を与え、もしくは寄付金をしているものがあるが、この種の組合も弊害があってよろしくない。資本家の労働者と合同した組合は、勢い資本家に隷属したものとなり、組合本来の目的たる賃金増加の要求のできないような弱点が生じて来て、その組合は発達しない。我が国の職工組合では鉄工組合は社会主義に傾き、活版組合はやや隷属的関係を保ち、丁度中庸をとってその特色を発揮したものは之までには一つもなかった。これも職工組合の振るわない一つの原因である。」

『皮革世界』(第三年第十四号)