井上哲次郎


明治のころ、本気でこの国を「働く者の楽園」に
変えようとした靴職人がいた!
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「◎私の健康法(七)井上哲次郎氏・・・・・小石川表町の井上哲次郎博士の家は馬鹿に廊下が多い。しかもいづれも幅が広い。書斎はと見れば中央に長テーブル一脚、その周囲は自由に歩ける程の余裕があり東南に面してはサンルームが続いている。博士にいはすれば屋内運動場である。『私は暇あるごとに屈伸法を試み天気よければ一里位屋外歩行、雨ならば盛んに廊下を歩く。その他七十五歳までは厳冬といえども水道水で冷水浴をやったが、昨今は夏期のみ実行している。これが私の健康法である。』安政二年生まれだから今年は七十八歳。中肉にして腰一つ曲がらず、音声は高く、顔色よく真の健康体というべき体格。『一体人間は老齢になれば脂肪が増し、いはゆる老病たる腎臓、糖尿、リューマチ等にかかる。又は骨はこわばり、足腰不自由を感じ、背柱は曲がるものである。かくなれば長寿はおぼつかない。此の予防には屈伸法が一番よい。しかも屈伸法は簡単にして無理がない。まづ、手をさげて前に屈し、手指をつま先にやる。つづいて手を背にやって後方に反り、次は体くを左右に屈する。こうやることによって全身の調節をはかり血液の循環がよくなり、足腰の曲がることなどは絶無となる。欠伸は伸の方のみをやるのでこれだけでも運動にはなるが、屈伸法をやっていれば欠伸が出なくなる。』だからこそ博士は欠伸を知らず、今でも東洋大学その他で一週間十時間数百の生徒の前でマイクロホンの必要もなく講義をするの元気を持つ。『冷水浴も血液の循環を良くするが、朝早くやることによって「みそぎ」する感を深くし、終日能率が上がる。しかし老齢の人は屈伸法が一番よい。昨今は種々な健康法があるが、誰にでも良いというのは余りない。この屈伸法こそ誰にでも適し、死んだ渋沢子爵も実行者であった。その他老齢の人は何か精力の増すものを服用する必要がある。私は朝鮮ニンジンエキス、松葉の粉、にんにく、松の実等を交互に服用している。これによって勢力は増す故に屈伸法とこれ等を兼用すれば健康疑いなし。』七十八の老青年の長寿法かくの如し・・・」

『東京朝日新聞』(昭和7年7月27日付け)